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疑問を感じれば、合理性を最重要視する金融ビジネスはあっさりとその場所を放棄するだろう。
金融ビジネスを「誘致」したいと考えている国は少なくないからだ。 日本市場を運用対象にするファンドが、なぜ日本ではなく香港やシンガポールに拠点を置くのかという疑問は、こうした点から解読可能となるだろう。
第3の金融育成力は、国の金融観がストレートに表現されるものである。 これは、間接的にではあるが金融産業の生産性の対GDP比によってある程度類推することができるだろう。
日本の場合、2007年4から6月期で見るとGDPに占める金融・保険部門のシェアは6.3%である。 日本の場合、1990年以降の「失われた坊年」の期間にそのシェアを5%程度に落とした後、徐々に回復を見せてはいるが、17%程度を金融で稼ぐといわれる英米の水準とは大きな差がある。
ちなみに経済産業省の資料によれば、1970から1980年代の英米日のシェアは5%程度でほぼ並んでおり、1990年代以降にこの差が急速に拡大したとも読める。 なお、金融立国を自認するスイスでもGDPの17%は金融ビジネスが占めており、1人当たりGDPが世界最高のルクセンブルクはそのGDPの大半は金融業における収益であるといわれている。

さらに、金融業がどれだけ雇用を生むのかという点も重要だ。 金融力日本の自動車メーカーが世界一になれるのに、なぜ銀行や証券会社が世界一になれないのか、という問いには、産業の特性や経営の体質もさることながら、国家としての取り組み姿勢が少なからぬ影響を及ぼしていることにも着目する必要があろう。
現在、金融や経済は民間にすべて任せるべきだとの風潮が強まっているが、以下では、金融や経済に関する歴史を振り返りながら、金融の発展が国家などの社会的権威を借りて育成されてきたことを概観しつつ、国家戦略が金融の発展、ひいては経済発展に実に大きな影響力をもつものであることを示してみようと思う。 国際金融の力学−どのように発展してきたか手形取引の「発明」がもたらした金融拡大力学としての国際金融の場を、まず交易の観点から見てみよう。
金融とはカネが余っている人から足りない人に流れるという単純な導管ではなく、事業などでカネを必要としている人に貸してあげる取引、あるいは交易決済に必要な資金を融通する取引という何らかのエネルギーが燃焼されるメカニズムだと考えると、そのイメージがより鮮明になる。 それを実際に具現化したのは、中世イタリアを中心とする欧州大陸であった。
現代において金融取引で一般的に利用されている手形は約束手形であり、最近ではCPや電子CPといった形式に移行し始めているが、そもそも遠隔地貿易の際に利用されたのは為替手形であった。 為替手形とは、手形を振り出す者が、第三者である支払人に受取人へ支払いを委託するもので、通常の約束手形のような2者間取引ではなく、3者が絡む取引である。
これを「発明」したのが中世イタリアの商人であり、それを利用して富を蓄積したのがイタリアの銀行であった。 ちなみにイタリア語で銀行を示す「BANCO」が現在の「BANK」の語源であるといわれるが、まさにこうした為替手形の取扱いによる金融拡大は「銀行の源」にふさわしいものだといえるかもしれない。
それは、中世キリスト教社会において必ずしも歓迎されなかった「金利の受け取り」を巧妙にカムフラージュして、交易決済と融資という要請を一手に引き受けるという画期的で実利的な高金利ビジネスを生み出したからである。 フィレンツェとロンドンとの間で行われる交易を想定してみよう。
香辛料やシルクを購入するイタリア商人が、それらをガレー船で北へ運びロンドンの商人に販売する。 現代の常識では、支払いはロンドンからイタリアへと送金されることになるが、当時はまだそういうシステムはない。
イタリアの商人は、ロンドンの商人を支払人とする為替手形を振り出して、受取人である金融機関、たとえば M 銀行へ持ち込むのである。 M 銀行はその手形を持ち込んだ商人に手形に記載された「1000フローリン」を支払う。

その手形には、ロンドンの商人が受取人の M 銀行あるいはそれが指図する者へ「200ポンド」支払うと書いてある。 M 銀行は、ロンドンの支店またはコルレス契約(手形取立などの取引条件を定めた契約)のある銀行を通じてその商人から200ポンドを回収するのである。
だがそこにはフローリンとポンドの為替リスクが生じる。 リスクに敏感な銀行家は、それをヘッジするための最適な方法は、逆の取引をロンドンとフィレンツェの間で行うことだと気づく。
つまり綿織物を買いつけてイタリアへ輸出するロンドンの商人を見つければよいのである。 彼が、フィレンツェ商人を支払人とする為替手形を振り出して、200ポンドを手に入れるのと引き換えにイタリアで1200フローリンを支払うように委託すれば、 M 銀行の懐には自動的に200フローリンの利益が転がり込む仕掛けである。
もちろんこうした上手い取引が常時存在するとは限らず、思わぬ為替の変動で損失を被ることがなかったわけではない。 だがその背後には、当時の為替レートは地域ごとに違いがあるという安全装置が備わっていた。
フィレンツェとロンドンでは、フローリンとポンドの為替レートが異なっていたのである。 仮に M 銀行がロンドンで商人を見つけることができなくても、200ポンドはほぼ確実に1000フローリンを下回らないイタリア通貨に換金できたのであった。
当時の神学者たちがこの取引が高利貸しにあたるかどうか、悩んだのも無理はない。 金利を邪悪視したのはイスラム教だけではなかった。
キリスト教もまた、高い利息を稼ぐ金融取引は神と自然法に背くものとして禁止していたのである。 高利貸しがキリスト教徒として埋葬されるのを教会から拒絶されたという話も伝わっている。
銀行家による教会への寄進が急増したのは、一種の聴罪意識であろう(この感覚は現代の経済社会にも脈々と受け継がれているといえよう)。 結局ローマ教会は、為替手形による取引は為替リスクをとった商いだとして、高利貸しではないとの判断を下した。
そして、それは銀行と教会との距離感をより緊密なものにしたといえるかもしれない。 金融機関は、教会が彼らのビジネス上のきわめて重要なパートナーになることを悟っていく。
同時にこの社会的権威による金融の「認知」は、お金のビジネスが国際的に飛躍するための貴重なステップとなったのである。 国家が支えた金融リスクイタリアから始まった国際金融が、地域を超えた地球規模での本格的な取引にまで飛躍するには、やはりスペインやポルトガルが先導した脇世紀の大航海時代を待たねばならない。
そしてその大胆なリスク・テイクを支えたのが教会ではなく国家であったこと、つまり国家が金融に深く関わりをもち始めたというのは重要な変化であろう。 異なる国の間で交易を決済するために、輸出業者は代金回収を確保しようとして銀行に手形を買い取らせ、銀行はそれを輸入業者に提示する。

イタリア商人が作ったその巧妙なシステムは、その後大航海時代が切り開いた世界的交易時代の重要な金融インフラとなり、その威力を保持し続けている。

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